インスタレーション

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インスタレーション(Installation art)とは、1970年代以降一般化した、絵画彫刻映像写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外など、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。空間全体が作品であるため、鑑賞者は一点一点の作品を「鑑賞」するというより、作品に全身を囲まれて空間全体を「体験」することになる。鑑賞者がその空間を体験(見たり、聞いたり、感じたり、考えたり)する方法をどのように変化させるかを要点とする芸術手法である。最初はおもに彫刻の展示やパフォーマンスアートの演出に対する試行錯誤から誕生したが、次第に彫刻などの枠組みから離れ、独自の傾向を見せるようになったため独立した表現手法として扱われるようになった。

インスタレーションの意味[編集]

インスタレーションとは、元の意味は「設置」「展示」「インストールする」という意味であり、古くから美術館の壁面などへの作品展示も「インスタレーション(installation)」と呼ばれていたが、壁や床いっぱいに絵画や彫刻を飾り付けていた時代はインスタレーション(展示)の方法はあまり問われなかった。

展示方法の工夫を通して鑑賞者への見せ方を意識することはロダンら一部の彫刻家が先駆的に取り組んだが、やがて展示方法によって空間自体を作品化することが美術の一手法として認識されはじめ、彫刻や絵画などから独立した。中国韓国では「装置芸術」「設置芸術」などと呼ばれることもあるが、日本では一般に「インスタレーション」の名称が用いられる。

インスタレーションを制作するにあたり、映像、彫刻、絵画、日常的な既製品(レディメイド)や廃物、音響、スライドショーパフォーマンスアートコンピュータなど、どのようなメディアを使用するか、また美術館画廊などのギャラリースペース、住宅など私的空間、広場ビルディングなどの公的空間、人のいない自然の中などどのような場所を用いるか、などは特に問われない。

特徴[編集]

  • インスタレーションは基本的には一時的(テンポラリー)なものであり、展覧会期が終われば撤去されてしまい人々の記憶の中にしか残らない。(写真だけが、後から追体験する方法であるが、写真を見るだけではその作品を体験したとはいえない。ただしその写真自体がインスタレーション作品とは異なった魅力を発揮する作品になることもある。)
  • また、インスタレーションは設置場所に固有サイト・スペシフィック)のものである。近代以降の芸術作品は、教会や建築物から独立し、額に入った絵画や台座に乗った彫刻などどこにでも持っていけるスタイルになり、世界中のどこに置いても同じように成立すると考えられるようになった。しかし「芸術作品が設置される場所と無縁になったのは良くなかったのではないか」との考えから、インスタレーション作品は設置場所の形状や周囲の壁面・建築・地形との関係、その場所にかかわる歴史や記憶などと密接に結びつくようになった。それゆえ、他の場所への移転や再現は、作品として成立しなくなるため困難である。

一時的でしかも場所固有なので、そこに恒久設置された作品ではない限り会期後は消えうせることになる。また、売買は基本的に困難である。

売買にあたっては、美術館などが作家に制作を依頼して恒久設置あるいは一時設置の方法をとるか、またはコレクターや美術館が詳細な設計図とともにパーツすべてを買い取り、再設置に当たっては作家が監修してその場所に合わせて展示方法を変えることなどの方法がとられる。また作家や美術商がインスタレーション制作前に習作として描いたドローイングや試作模型、インスタレーションの記録写真などを販売することもある。

歴史[編集]

もともと西洋の現代美術の一ジャンルで、1970年代以降に盛んになったものである。

起源ははっきりとはしていないが、イタリア・ローマアカデミーの舞台美術科を卒業し、その後舞台美術を応用した作品群を発表しているピーノ・パスカーリ(1960年代)がインスタレーションの創成期のもっとも早い作家の一人である。そのながれは今日のアルテ・ポーヴェラへと引き継がれている。

またアメリカにおいて1950年代末にハプニングを創始し理論化したアラン・カプローらも、ハプニングにおいてパフォーマンスを演じる際の装置や作品をゲリラ設置したりする環境を考える中で、環境芸術やインスタレーションに通じる問題意識を持つようになり、後のインスタレーションに影響を与えている。ほかにも1960年代コンセプチュアル・アートなどに起源をもつ、形態に焦点を置く伝統的な彫刻概念から離れた立体作品群が、現在のインスタレーション・アートに強い影響を与えている。

西洋以外でのもっとも早い時期のインスタレーション・アートの例として、日本の「具体美術協会」の、1954年ごろの初期の野外(芦屋公園)における美術展やサンケイホール・草月ホール等の舞台に於けるパフォーマンスがあり、カプローらも後にハプニングやインスタレーションの初期の例として評価している。

さらに古い起源をたどれば、伝統的な彫刻などの系譜よりも、マルセル・デュシャンが行ったレディメイド(既製品をそのまま作品とする)やクルト・シュヴィッタースメルツ芸術(廃物などを集めて再構成して作品を作る彼流のダダイスム。代表的なものに、自分の住宅内に作った巨大構造物メルツバウ(メルツ建築)など)にたどり着く。

模倣[編集]

2005年3月、資生堂が発売した発毛促進剤「薬用アデノゲン」のテレビコマーシャルが、横尾忠則のインスタレーション作品と「アイデアやコンセプトが作品と類似している。広告の作り手の主体性とモラルを問いたい」と抗議を受け、CMの放映をとりやめた。どちらの作品も、壁全面におのおのコンセプトの元に集められた写真を貼るというものであった。しかし反復と物量の多さで、単体ではさほど魅力のない作品の主張を強める、という手法はインスタレーションとしては極めて一般的で、決して横尾が始めた手法ではない。関係者からは疑問の声も多く挙がった。

前述の事件だけでなく、展示方法は模倣をせずとも自然と制約の中から似てしまう場合があり、何をして模倣かという線引きは曖昧である。

主要なインスタレーション作家[編集]

関連項目[編集]

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